「アントワープ聖母大聖堂」小説『フランダースの犬』の舞台へ!ネロが憧れたルーベンスの4大傑作

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『フランダースの犬』の舞台「アントワープ聖母大聖堂」へ

17世紀バロック時代の巨匠ピーテル・パウル・ルーベンス(Peter Paul Rubens)の故郷であり、芸術の街として名高いベルギー第2の都市アントワープ。そんなアントワープのランドマーク的存在として、街の中心部に「聖母大聖堂/ノートルダム大聖堂(Cathedral of Our Lady/Onze-Lieve-Vrouwekathedraal)」の尖塔が天高く聳えます。

日本ではアニメーション化された小説『フランダースの犬』の舞台として一躍有名になりました。特に主人公の少年ネロと愛犬パトラッシュが天に召されていくラストシーンは幅広い世代で記憶に残っているのではないでしょうか。大聖堂内ではネロが憧れ続けたルーベンスの傑作を鑑賞することができます。

ブリュッセル中央駅・アントワープ中央駅からのアクセス

ベルギー観光の拠点としていたブリュッセルから北へおよそ50km、アントワープへ向かいます。ベルギー国鉄(NMBS/SNCB)を利用して、ブリュッセル中央駅からアントワープ中央駅までの平均所要時間は50分前後。アントワープ中央駅から大聖堂までは、およそ1.6km、徒歩20分ぐらいです。

大聖堂を訪れる前は「ルーベンスの家(The Rubens House)」に立ち寄りました。ルーベンスの家はアントワープ中央駅と大聖堂のちょうど中間ぐらいにあるので、アントワープの街を散策しながら歩くにはちょうど良い距離です。

ルーベンスの家から歩いて、大聖堂南側に位置するグルン広場(Groenplaats)に到着すると、大聖堂を背景にルーベンス像が聳え立っています。ベルギーの彫刻家ウィレム・ギーフ(Guillaume Geefs/Willem Geefs)による作品です。堂々たるルーベンス像を眺めながら、大聖堂の尖塔側に回るとアントワープ大聖堂の入口があります。

ベネルクス最大の高さを誇る聖母大聖堂

1352年から1521年まで約170年という年月をかけて建築された聖母大聖堂。優美に聳える北塔の高さは125m。ベネルクス(ベルギー・オランダ・ルクセンブルク)で最大の高さを誇ります。写真を撮ろうとするとファインダーに収めるのも大変…。当初は南塔も増築される予定でしたが、資金難や火災などの困難が重なったため、未完のままとなっています。

鐘楼部分は、ベルギー・フランス合わせて56の鐘楼がリストされているユネスコ世界文化遺産「ベルギーとフランスの鐘楼群(Belfries of Belgium and France)」のひとつとして登録されています。

大聖堂正面のファザードは、精緻に彫り込まれた彫刻が印象的です。扉中心部には聖母子像、上部のタンパンには「最後の審判」を見ることができます。

白く明るい光に包まれた清らかな空間

入口の扉を開けると、すーっと吸い込まれていきそうな白く明るい光に包まれた清らかな空間が広がります。主祭壇へと続く身廊は、まるで天使のとおり道のようです。凛と立つ48の柱が雄大な内部スペースを作り上げ、ゴシック建築を象徴する高い天井へ向かうアーチを描いた美しい曲線が際立ちます。

聖堂内には128面の窓がありますが、そのうち55面はステンドグラスになっています。各所にあるステンドグラスから光が取り込まれて、美しい彩となって白を基調とした内装とのコントラストを演出しているようでした。

あまり観光客は多くなく、教会らしい厳かな空気が漂います。日本語のパンフレットには「訪問者へのアドバイス」がこのように記載されていました。

『大聖堂の後ろに座り、壮大な建物を体感してみてください。巨大な柱が天井へと繋がっています。美しいステンドグラスが光を反射させています。周りは豪華な芸術作品で溢れています。心が洗われることでしょう…

大聖堂では自分のペースで楽しみましょう。立ち止まり、五感を研ぎ澄まし、インスピレーションを受けてください。…』

まさに神の家として建てられた大聖堂の神聖さを感じて、豪華な芸術作品の数々を堪能しながら、しばし心穏やかな時間を過ごしましょう。

アントワープ王立美術家とのコラボレーション

もともとアントワープ大聖堂を訪れた目的は『フランダースの犬』の舞台でルーベンスの絵を見ることでしたが、聖堂内にはルーベンスの作品だけでなく、クエンティン・マサイス(Quinten Massijs)やフランス・フロリス(Frans Floris)など16-17世紀に活躍したフランドルの巨匠の絵画が飾られています。

こうした名高い作品の再集結は、アントワープ王立美術館とのコラボレーションによって実現されました。教会でありながら、まさに美術館を訪れたかのような充実したコレクションを堪能することができます。

ネロが見たかったルーベンスの傑作はコレ!!

いよいよ『フランダースの犬』の主人公ネロが憧れていたルーベンスの傑作とご対面です。この大聖堂では、ルーベンスの4大傑作が芸術遺産となっています。

物語では、聖堂内にあるルーベンスの2枚の祭壇画にはカーテンが掛けられていて、絵を見るためには拝観料を払う必要があったため、貧しいネロには叶いませんでした。有名なラストシーンでは、吹雪の中でネロが大聖堂に辿り着くと、いつもは閉められているはずのカーテンが開いていることに驚きます。ついにルーベンスの作品を見ることができるのです。

ネロが憧れていた2枚の祭壇画のうちの1枚、主祭壇の北側にある『キリスト昇架(The Elevation of the Cross /The Raising of the Cross)』。

三連祭壇画の中央左下に描かれている犬のモデルが、ルーベンスが飼っていた愛犬の「パトラッシュ」だったことから、ネロの愛犬「パトラッシュ」もこの絵画に由来するとされています。アニメーションでは『キリスト昇架』を前にしたネロが、念願の想いが叶ったことに感慨深く作品を見つめるシーンが印象的でした。

続いてネロが駆け寄ったもう1枚の絵は、主祭壇の南側にある『キリスト降架(The Descent from the Cross)』です。『キリスト昇架』の対象に位置しています。

ついに憧れの絵を見ることができたネロは、「パトラッシュ、僕は見たんだよ。一番見たかったルーベンスの2枚の絵。だから僕は今すごく幸せなんだよ。」とパトラッシュに語りかけます。そして、力尽きて息絶えたネロはパロラッシュとともに天使たちに召されながら天国へと旅立つのです…(涙)

『キリスト降架』の奥には『キリストの復活(The resurrection of Christ)』を見ることができます。当時の芸術作品では、キリストの墓は石棺として描写されることが多く、岩石のような墓から強く激しくキリストが復活する姿が描かれたこの作品は、目新しいものでした。

そして、この大聖堂にあるルーベンス4大傑作のうち、ルーベンスが最後に描いた作品は、主祭壇に飾られている『聖母被昇天(The assumption of the Virgin)』です。

『フランダースの犬』の主人公ネロは、毎日のように教会を訪れて、お金を払わなくても見ることができる『聖母被昇天』を眺めていました。慈愛に満ちた聖母マリアの姿に亡き母の姿を重ねながら、いつか画家になることを夢見ていたのです。

主祭壇の上を見上げると、フランドルの画家コルネリス・スフート(Cornelis Schut)によって同じテーマで描かれた天井画『聖母被昇天』を見ることができます。ルーベンスの弟子だったという説もありますが、いずれにしてもその作品にはルーベンスの影響が見受けられます。ドームの高さが43mもあるので、もっと近くで見たい!と願ってしまう美しい天井画でした。

アニメーションのラストシーンでは、ネロとパトラッシュが横たわる暗い教会に、突然このドームから光が差し込むと、天使たちが舞い降りてきて、息絶えたネロとパトラッシュを天へと導いていきます。

「ネロはおじいさんやお母さんがいる遠いお国で、みんなで一緒にいつまでも楽しく暮らすことでしょう。」と『めでたしめでたし』っぽくラストを迎えるわけですが、個人的な感想としては全然めでたくないし、悲しすぎるし、辛すぎる…。

小説『フランダースの犬』はイギリス人の女性作家ウィーダ(Ouida)が19世紀に書いた児童文学です。生まれながらの家柄や貧しさに負けずに幼い少年が健気に暮らしながら、大ドンデン返しなしの過酷な現実が突きつけられているようで、最後には幼い子どもの命が絶たれるという、かなり切ない悲劇…。儚さという美学もありますが、やっぱりツライよ。

ルーベンスだけじゃない!見どころいっぱいの大聖堂

大聖堂内はルーベンスの絵画だけではなく、その他にもたくさんの見どころがありました。じっくり鑑賞しようと思うとある程度の時間が必要になってきます。

身廊の中央南側には、繊細な装飾が印象的な「説教壇(Pulpit)」があります。もともと南アントワープのセントバーナード教会にあったもので、1713年にミシェル・ヴァン・デ・ヴォールト(Michiel van der Voort)によって作られました。各所に施された鳥や植物は創造の多様性を表現しています。また、ヨーロッパ、アジア、アメリカ、アフリカの4大陸を象徴する女性像で構成された壇を支える基台は、全世界を表現するものだそうです。

説教壇のトップには、翼を広げた鳩のような聖霊が光背となって、歓喜の詩を吹き鳴らす天使の姿が見られます。自然主義、バロック様式、ロココ様式が混在するこの説教壇は、フランドル美術の頂点のひとつに数えられています。

説教壇よりさらに南側にある「秘跡礼拝堂(Sacrament chapel)」。祭壇中央にはゴールドに輝く「契約の櫃型の聖櫃(Tabernacle in the form of the Ark of the Covenant)」が置かれています。立ち入りできなかったので、遠くから眺めました。

契約の聖櫃とは『旧約聖書』に記されている、十戒が刻まれた石板を収めた箱のことです。映画『インディ・ジョーンズ』の第1作『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』(なんと1981年の作品!生まれる前だった!)では、だいぶ大きく意味が脚色されて、神の絶大なるエネルギーが収められている箱として描かれていました。

秘跡礼拝堂と対象の北側に位置するのは「聖母礼拝堂(Mary chapel)」です。祭壇中央には「アントワープの聖母の慈悲(Devotional statue ‘Our Lady of Antwerp’)」を見ることができます。清らかさと漂うこの空間では、ロウソクに火を点して、祈りを捧げる地元の人の姿も見られました。

豪華な衣装をまとった木造のマリア像。この衣装は定期的に替えられているそうです。キリストを抱いたマリア像からは尊厳と慈悲深さを感じることができるようでした。

この聖母礼拝堂の入口には「ムーズ川のマドンナ像(Madonna and child)」が置かれています。幼く無邪気なイエスに頬を撫でられるマリアの微笑みがなんとも優しく穏やかで、衣装のドレープが象徴するような柔らかさに圧倒的に惹かれました。まさに永遠に眺めていられるような美しさ。

多くの日本人の記憶に刻まれている1995年に起きた阪神大震災。その際に、被災者を追悼するとともに、アントワープ市と神戸市の友好と連携、希望の印として『ムーズ川のマドンナ像』のレプリカ像が神戸市六甲のカトリック教会に贈られたとのことでした。心温まる出会いに感謝です。

主祭壇の『聖母被昇天』のちょうど裏側に位置するのは、ルーベンスと同時代の画家アブラハム・マティス(Abraham Matthyssens)によって描かれた『聖母の死(The death of the Virgin)』。まだ苦しみの兆候を見せない若いマリアが死のベッドに横たわって、天界ではキリストと天使たちがマリアの到着を準備ができていることを示しています。

主祭壇とその裏に位置する対照的な2枚の絵画。それぞれに描かれたマリアの姿は、『聖母被昇天』が”動”なら『聖母の死』は”静”、躍動と静穏を表しているかのように感じられました。

主祭壇を中心にして両側面に繊細な装飾が施された「聖歌隊席(Choir-stall)」があります。完成までは1840年から1883年までおよそ40年に渡り、当時の有名な彫刻家たちがその無数の装飾的かつ造形的な創作に取り組みました。

それぞれ中央の塔と36席ある聖歌隊席。特に注目すべきは、聖母マリアの生涯から36のエピソードが高浮き彫りによって表現されています。

中央主祭壇のちょうど北側の奥に見えるバラ窓の下には「聖ヨセフ祭壇装飾衝立(St Joseph retable)」が置かれています。中央部分は木製の彫刻、両サイドは絵画のパネルで構成された珍しい祭壇衝立です。

中央部分の繊細な彫刻は、ヨセフの生涯から7つのエピソードで構成されています。幼いキリストを抱いたヨセフ像を中心に、左側にはヨセフとマリアの結婚、キリストの誕生、キリストの神殿奉献、右側にはエジプトへの逃避、エルサレムの神殿で見つけられたキリスト、ナザレの聖家族、中央下にはヨセフの死が描かれています。

その他にも聖堂内には様々な祭壇衝立を見ることができます。

ベルギー観光で訪れたい!アントワープ大聖堂

子どもの頃に見た『フランダースの犬』。主人公のネロが憧れていたルーベンスの絵画に、私も同じように憧れて、それから数十年後に実際にアントワープ大聖堂を訪れて、本物に触れられることができるなんて、とても幸せでした。

ルーベンスの絵画だけではなく、美術館のような数々の芸術作品に魅了されながら、美しい大聖堂の荘厳さに包まれて、心が洗われる時間を過ごすことができました。ベルギーを訪れた際は、ブリュッセルから少し足を伸ばして、ルーベンスの故郷を感じながら、アントワープ聖母大聖堂を訪れてみてはいかがでしょうか。

OLV kathedraal Antwerpen(オフィシャルサイト/英語)
「ルーベンスの家」アントワープが誇るバロックの巨匠ルーベンスの邸宅
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