ベルギーの首都ブリュッセルにある「ベルギー王立美術館(Royal Museums of Fine Arts of Belgium/Musées royaux des beaux-arts de Belgique)」。15世紀から現代までの美術作品20,000点以上の所蔵を誇るヨーロッパ屈指の美術館です。
ベルギー王立美術館を構成する6つの美術館
フランドルを代表する画家ピーテル・ブリューゲルやピーテル・パウル・ルーベンスの作品が数多く展示されていることで知られている「ベルギー王立美術館」ですが、その呼称は複数の美術館から構成された総称で、6つのパートから成り立っています。
・マグリット美術館(Musée Magritte Museum)
・世紀末美術館(Musée Fin-de-Siècle Museum)
・古典美術館(Musée Old Masters Museum)
・現代美術館(Musée Modern Museum)
・ムニエ美術館(Musée Meunier Museum)
・ヴィールツ美術館(Musée Wiertz Museum)
特に、ベルギーを代表するシュルレアリスムの巨匠ルネ・マグリットの作品およそ230点を収蔵するマグリット美術館は、世界で最も充実したコレクションとして、世界中のマグリットファン、美術ファンが訪れています。
ブリュッセル中央駅からベルギー王立美術館へのアクセス
ブリュッセル観光の拠点となる鉄道のブリュッセル中央駅(Brussel-Central)からベルギー王立美術館までおよそ徒歩10分。
駅から美術館へのルートはいくつかありますが、観光スポットのひとつでもある「芸術の丘(Mont des Arts)」を散策しながら、ブリュッセルの美しい景観を楽しむのがおすすめ。
芸術の丘からの景色。庭園の先には、ブリュッセルの美しい街並みが広がり、その中央に優雅に聳える塔は「グラン=プラス(La Grand-Place)」のシンボル的存在である市庁舎の塔です。庭園の左側には「アルバート1世王立図書館(Royal Library of Belgium)」、右側には「コングレ宮(Palais des Congrès)」の建物を見ることができます。
芸術の丘から真っ直ぐ進んでいくと、新古典主義(ネオクラシック)様式の事例として知られる「ロワイヤル広場(Place Royale Bruxelles)」に到着します。
広場中央には、同じく新古典主義建築の「聖ヤコブ教会(Saint Jacques sur Coudenberg)」を背景に、第1次十字軍(1096-1099年)の指導者で、エルサレムの初代聖墓守護者となったゴドフロワ・ド・ブイヨン(Godefroy de Bouillon)の騎馬像が聳えます。
ロワイヤル広場からレジャンス通り(Rue de la Régence)沿いを歩いていくと、ベルギー王立美術館に到着します。道順には、ところどころにインフォメーションがあるので安心です。
毎月第一水曜日の13:00以降は入場無料!
ベルギー王立美術館の入場料は、下記のとおりです(2018年11月時点)。
・大人料金(19-64歳):古典美術館+世紀末美術館・マグリット美術館 各10ユーロ/共通チケット15ユーロ
・シニア料金(65歳以上):8ユーロ/共通10ユーロ
・学生料金(19-26歳):3ユーロ/共通5ユーロ
・19歳未満:無料
※ムニエ美術館とヴィールツ美術館は入場無料
私が美術館を訪れたのは、11月の第一水曜日の午後。実は、ブリュッセルの一部の美術館や博物館は、毎月第一水曜日の13時以降は入場料金が無料になるのです!
当日は、アントワープを観光してからブリュッセルに戻ってきたために、ゆっくり鑑賞できる時間もなく、翌日にはブリュッセルを出発しなければならないので、美術館を訪れることは諦めようとしていましたが、無料なら行くしかない!と閉館時間まで1時間ぐらいでしたが、急いで美術館を訪れました。
アール・ヌーヴォーの巨匠エミール・ガレを堪能したい!
滞在時間はわずか1時間ということで、世紀末美術館の1点に絞りました。もともとベルギー王立美術館を訪れたいと思ったのは、私が愛するアール・ヌーヴォーの巨匠エミール・ガレのコレクションが充実しているから。ルーベンスはアントワープで堪能してきたし、マグリットの貴重なコレクションも見てみたかったですが、ここはガレ一筋で!!
シャルル・マルタン・エミール・ガレ(Charles Martin Émile Gallé)1846年– 1904年
フランスロレーヌ地方ナンシー出身のアール・ヌーヴォーを代表するガラス工芸家、陶器・家具のデザイナー、アートディレクター。
■Vase rouleau/Roll Vase/花瓶
ガレ作品にはめずらしいクリスタルが貴重とされた花瓶。笹や梅のような草花のモチーフや波を描く美しいうねりが目を引きます。19世紀のヨーロッパで流行して、特にアール・ヌーヴォーの誕生やガレ自身に大きな影響を与えた「ジャポニスム」が表れているような作品でした。
■The hippocampes/The Seahorses/タツノオトシゴ
タツノオトシゴのモチーフが大胆に装飾された水差し。グラデーションが美しい多層のガラスがベースとなって、メタリックや珊瑚を表現したような赤の色彩が映えています。タツノオトシゴの愛らしくてファニーな顔もガレらしくて好きな作品でした。
■Une Rose me dit : devine… Et je répondis : Amour!/A Rose told me:guess…And I replied:Love!/ローズは私に言った:たぶん…そして私は答えた:愛!
大理石をベースにしたガラス全面にローズ色の花々が彫刻され、柔らかい曲線を描いたフォルムの花瓶。まさに”愛!”を表現しているような優しさや寛容さが感じられました。実は、花瓶の底面にはこのユーモラスな作品名とバラの彫刻が刻まれています。
■Orchidée/Orchid/蘭(写真:左)
3層の吹きガラスを基台にしたカップ。金属を鍛造して形成された蘭の花をモチーフにしたシルバーの華やかな装飾が目を引きます。
■Papillons de nuit/Night butterflies/夜の蝶(写真:右)
Orchidéeと同じ3層のガラスから作られた花瓶。ライトブルーと白を背景として、その上に施されたダークブルーの彫刻が「夜の蝶」というテーマを効果的に表現しているようでした。
■Iris/アイリス(写真:左)
アヤメ科のアイリスをモチーフにした水差し。まさに目の前にアイリスの花が咲いているような美しいガラスの色合いが印象的です。
■Bouton d’Iris/Bud of an iris/アイリスの蕾(写真:右)
多層に重ねられたガラスで作られた花瓶。モチーフとなるアイリスの蕾の模様を刻み込んで、そこに寄木細工のように異なるガラスがはめ込まれています。柄だけではなく、花瓶のフォルムそのものがアイリスのふっくらとした蕾をイメージしているようです。
■Soldanelle des Alpes/Soldanelle of the Alps/ソルダネラ・アルピナ(写真:左)
ヨーロッパアルプスに自生する多年草、ソルダネラ・アルピナ(和名:イワカガミダマシ)をモチーフにした花瓶。雪解け水が流れる頃に花芽を持ち上げて、可憐な赤紫色の花を咲かせるようなイメージです。とても鮮明に印象に残る作品のひとつでした。
■Fonds marins/Seabed/海底(写真:右)
紫色の層が重ねられた吹きガラスが基台となっている花瓶。貝殻をモチーフにした可愛らしいガラス細工が施されています。重なる紫紺の色合いが深い海底を表しているようでした。
他にも家具や食器などたくさんの貴重なガレ作品を見ることができて大満足!!でも、個人的にはやっぱりガラスに表現されたガレの世界が一番好きです。いつまでも眺めていられるようでした。
世紀末美術館でガレの作品にたどり着く途中で鑑賞できた絵画もいくつかご紹介しませんと。時間がない中でしたが、著名な作品や初めて出会う作品に心惹かれました。
ジョルジュ・スーラ(Georges Seurat, 1859-1891)
■La Seine à la Grande-Jatte/The Seine at La Grande-Jatte/グランド・ジャット島からのセーヌ川
スーラは新印象派に分類されるフランスの画家。いつもスーラの作品を見るたびに思うのは「気が遠くなりそう…」ということ。こんなにも優美な点描画を完成させる技量には、精密で繊細な作品の背景にあるエネルギッシュな芸術魂を感じます。
アルフレッド・シスレー(Alfred Sisley, 1839- 1899年)
■A la lisière du bois / Paysage. Printemps/At the edge of the woods / Landscape. Spring/村のはずれ、春
もっとも典型的な印象派の画家といわれたシスレー。穏やかな風景画を多く残している画家です。同じ印象派のモネを思わせるような作風で、村のはずれに茂る草木の中に柔らなか春を見つけられて優しい気持ちになれる作品でした。
コンスタン・モンタルド(Constant Montald, 1862-1944年)
■La femme aux paons/The woman with peacocks/女性と孔雀
これまであまり目にすることのなかったベルギー象徴主義の美術家、コンスタン・モンタルドの作品。神秘的で幻想的で、その世界に惹かれました。のちに調べてみると、多くの画家が題材にしてきた『オフィーリア』をモンタルドさんも描いていて、優しい表情が印象的なとても素敵な作品でした(ベルギー王立美術館には所蔵されていません)。
ベルギー美術の魅力を発見しよう!
バロックの巨匠ルーベンスをはじめ、ブリューゲルなどフランドルの画家たちの作品が充実しているベルギー王立美術館。さらに、世界最大級のマグリットコレクションを誇り、近代美術館の中には特にベルギーの芸術家に焦点を当てたミュージアムもあります。
ぜひ美術を通じてベルギーの歴史や魅力を再発見してみてはいかがでしょうか。ますますベルギーが好きになってしまうこと間違いなしです!
私自身はアントワープでルーベンスを思う存分に堪能したので、今回は自分の趣味に走った結果、ガレの作品をメインにご紹介しております(でも個人的には大満足…)。
ルーベンス作品はこちらの記事をどうぞ。
・「ルーベンスの家」アントワープが誇るバロックの巨匠ルーベンスの邸宅
・「アントワープ聖母大聖堂」小説『フランダースの犬』の舞台へ!ネロが憧れたルーベンスの4大傑作
関連リンク
・マグリット美術館(Musée Magritte Museum)
・世紀末美術館(Musée Fin-de-Siècle Museum)
・古典美術館(Musée Old Masters Museum)
・現代美術館(Musée Modern Museum)
・ムニエ美術館(Musée Meunier Museum)
・ヴィールツ美術館(Musée Wiertz Museum)